廃駅を通り過ぎる春の風
小名木川駅春の上潮曇るなり 波郷
江東区の南砂線路公園の近くに石田波郷が昭和21年(1946年)から昭和33年(1958年)まで住んでいた石田波郷宅跡がある。小名木川駅は、そこから北に500メートルほど行ったところにあった日本貨物鉄道(JR貨物)の貨物駅で、平成12年(2000年)に廃止になっている。
ただ、現在も貨物線は残っており、1日3往復ではあるが、ディーゼル機関車が行き来する。緑地として整備されている南砂線路公園は、今では珍しいディーゼル機関車を見学する絶好のスポットとなっている。
このあたり、現在では都市化が進み海の気配は感じられないが、当時は、南風に誘われて潮の香が満ちることもあったのだろう。ただ、貨物線が引かれていることからも分かるように、周囲は工業地帯で、波郷には「煤煙急ぎ雲はしづかに朝焼けぬ」の俳句もある。
春潮とはいえ、波郷の詩情にあてはまる、重たいにおいを含んでいたのだろう。あたりを行き交う現代人には感じられないものである。
【写真上】石田波郷宅跡を西に出るとすぐ貨物線があり、そこに南砂線路公園がある。南砂線路公園から北方に約500m行くと、かつて小名木川駅があった場所になる。そこに、ディーゼル機関車が停まっていた。向こうにはスカイツリーが見える。
【写真下】南砂線路公園から南方は、線路脇が歩道として整備されている。