不忍池の冬 そこは鳥の楽園
かわかわと大きくゆるく寒鴉 虚子
掲句は、虚子五百句(1937年刊)に「不忍池」の前書きがある高浜虚子の俳句である。不忍池弁天堂のベンチに腰を下ろすと、大都会の真ん中にぽっかりとあいた空に、様々な鳥が顔を出す。鳥たちは、夏の日差しの中より冬日の方が生き生きとして見える。特にこの不忍池で元気なのはユリカモメで、一部は群飛し、一部はひとのそばに寄ってきて、鳩とともに餌をかすめとっている。
また、枯れた蓮で覆われている水面は、鴨などの水鳥で埋め尽くされている。それを狙って上空に鷹が現れる時には、警戒音で辺りが一気に騒がしくなり、鳥の警察を自認しているであろう鴉が、突然群れて排除にかかる。
虚子が詠んだような鴉の姿を見ることができるのは、夕方が中心。特に冬場の鴉は、集団を作ってねぐらへ帰るため、カーカーと鳴きながら、池の上の大きな空間をゆったりと横切っていくのが観察できる。
上野の鴉は、人より早く朝一番に街中へ出勤して行き、迷惑行為を繰り返しているため、害鳥とも言われるが、本来は太陽の眷属。神の遣いでもある。ベンチに腰を下ろして、その行動を見守っていると、とても愛おしく思えてくる。
【写真上】不忍通り側から不忍池弁天堂を望む。冬場も掘り起こされることなく枯蓮が池を覆うため、鴨などの活動できる範囲は狭い。けれども、オナガガモをはじめとする多くの水鳥が、冬鳥として生活している。
【写真下】不忍池弁天堂横のベンチからの写真。都鳥とも呼ばれるユリカモメが、驚くほど近くに寄ってくる。