朝顔の井戸|東京を彩る季語

有名な朝顔の句を生んだ薬王寺の井戸

朝顔につるべとられてもらい水 千代女

薬王寺の朝顔の井戸朝顔の句として、掲句(*詳細)ほどに知られたものはない。江戸時代の美しい俳人・加賀千代女の代表句として知られるものである。

その舞台となった井戸が、港区三田の薬王寺にある。薬王寺は日蓮宗の寺で、もとは麻布狸穴にあったものが、この句ができる100年ほど前に、この地に移された。
けれども、井戸の歴史はもっと古く、文永元年(1264年)の飢饉の折に、日蓮上人によって祈祷された霊水だという。江戸三大火の厄をも免れ、火伏に功がある。現在でも墓地の隅に残されているが、本堂脇を通って寺院の裏側に回らねばならず、なかなかに見つけ難い。

訪れたのは8月中旬だったが、蝉の声の下を通り抜けると、墓石に照りかえる陽光が眩しい。井戸には、句にあるように朝顔があしらわれ、たしかに釣瓶に巻きついていた。薬王寺の朝顔の井戸
千代女といえば「蜻蛉釣り今日は何処まで行ったやら」を思い浮かべ、日常を詠んだ句のように考えてしまうが、言い伝えでは、日蓮上人を訪ね歩く諸国歴訪の旅の中で立ち寄った時のものだそうだ。「草木もこの霊水の徳を慕えるのか」と感銘し、この句が生まれたという。
もっとも、千代女が江戸に入ったという資料は見つかっていない。

【写真上】薬王寺の朝顔の井戸。家名の入った桶もきれいに並べられており、ここだけ江戸時代にタイムスリップしたかのよう。

【写真下】掲句の句碑。朝顔の井戸の前に、1979年3月に建立された。

薬王寺の朝顔の井戸春の東京季語夏の東京季語秋の東京季語冬の東京季語